あれは仕事で疲れ果てて帰宅した、雨の日の夜のことでした。マンションの玄関前でカバンをいくら探っても、いつもそこにあるはずの鍵の感触がありません。ポケットをひっくり返し、カバンの中身をすべて地面に広げましたが、そこには絶望的なまでの虚無感だけが広がっていました。どこで落としたのか、最後に鍵を見たのはいつだったか。記憶を遡っても、オフィスを出てから電車に乗り、スーパーに立ち寄ったという曖昧な断片しか浮かんできません。深夜の雨の中、私は自分が歩いてきた道を駅まで引き返しましたが、暗いアスファルトの上に鍵は見当たりませんでした。翌朝、私は最悪の事態を覚悟しながら、まずは近所の交番へ遺失届を出しに行きました。 交番の警察官は慣れた手つきで書類を作成してくれましたが、その口調は「見つかる確率は五分五分ですね」という、どちらとも取れるものでした。私は次に、立ち寄ったスーパーと、利用した鉄道会社に電話をかけました。しかし、どこからも「該当するものはない」という冷たい回答が返ってくるばかり。数日が経過し、私は予備の鍵を使いながらも、不安で仕方がありませんでした。もし誰かに拾われて家を特定されたら。もし悪意のある人の手に渡っていたら。鍵を交換すべきか悩みながら、私は一縷の望みをかけて、警察の遺失物公表システムを毎日チェックし続けました。 そして、紛失から一週間が経とうとしていたある日、システムに見慣れたキーホルダーの特徴が記載された「鍵」の項目が現れたのです。届け出先は、自宅から少し離れた場所にある警察署でした。震える手で電話をかけ、詳細を確認すると、私が立ち寄ったスーパーの駐輪場近くで誰かが拾って届けてくれたとのことでした。後日、警察署の窓口で対面した私の鍵は、雨に打たれたのか少しだけくすんで見えましたが、紛失時と同じ姿でそこにありました。拾ってくれた方は名前も名乗らずに去っていったそうで、日本という国の善意の厚さに涙が出そうになりました。 この経験から学んだのは、鍵を落としても決してすぐには諦めないことの重要性です。自分では「ここにはない」と思い込んでいても、誰かが親切心で少し離れた場所の警察署へ届けてくれることもあります。また、鍵に付けていた少し派手なマスコットが、警察のシステム上での特定に大きな役割を果たしてくれました。もし何も付けていなかったら、私の鍵は「特徴なし」として多くの受理品の中に埋もれ、私は自分の鍵だと気づけなかったかもしれません。あの日以来、私は鍵に紛失防止タグを付け、さらに自分の電話番号を記した小さなチャームを内側に隠すようにしました。絶望の夜を二度と繰り返さないための、私なりの決意です。
絶望の淵から鍵が生還した奇跡の体験談