長年夢見ていた自宅での書斎作りがようやく形になったのは、昨年の春のことでした。それまではリビングの片隅にデスクを置き、家族の気配を感じながら仕事をしていましたが、テレワークが定着するにつれて、どうしても集中力が途切れてしまうことが増えていました。そんな私を見かねて、家族が二階の納戸を片付け、私専用のスペースとして明け渡してくれたのです。机を運び込み、お気に入りの本を並べ、ようやく手に入れた「自分だけの城」。しかし、運用を始めて数日が経った頃、ある問題に気づきました。それは、扉に鍵がないために、仕事の電話中であっても子供たちが元気よく飛び込んでくることでした。 家族の愛情は嬉しいものの、プロフェッショナルとしての時間を確保するためには、どうしても明確な切り替えが必要でした。そこで私は、自分の手で部屋の鍵を取り付けることを決意したのです。とはいえ、我が家は数年前に建てたばかりの持ち家。あまり大掛かりな工事をして、扉を傷つけるのは抵抗がありました。ネットで数日間調べ尽くし、選んだのは、既存のドアノブを加工することなく、扉の隙間に金具を挟んで固定するタイプの後付け錠でした。これならば、不要になればすぐに取り外せますし、扉にネジ穴を開ける必要もありません。 注文した鍵が届いた土曜日の午後、私は少し緊張しながら取り付け作業を始めました。説明書を読みながら、扉の枠と本体の距離を微調整していきます。数ミリのズレで扉が閉まらなくなってしまうため、慎重に作業を進めました。ようやく設置が完了し、初めて内側からカチリと鍵をかけた瞬間、部屋の空気が一変したように感じました。それまでは単なる「二階の小部屋」だった場所が、鍵という一本の線を引いたことで、完全に私だけの、聖域とも言える空間に昇華されたのです。 その日の夜、私は家族を集めて小さな「開錠式」を行いました。「この鍵がかかっている時は、お父さんは今、大切な仕事をしている合図だよ。でも、鍵が開いている時はいつでも入ってきていいからね」と伝えると、子供たちは新しい秘密基地のルールを教わったかのように、目を輝かせて頷いてくれました。鍵を取り付けたことで、私は家族を拒絶するのではなく、むしろ家族との時間をより大切にするための「メリハリ」を手に入れたのだと実感しました。 実際に鍵を使い始めてから、仕事の効率は劇的に向上しました。一度集中モードに入ると、外部の音も以前ほど気にならなくなり、短時間で質の高い成果を出せるようになったのです。そして何より、仕事を終えて自ら鍵を開け、一階のリビングへ降りていく時の解放感が格別なものになりました。部屋の鍵という小さな金属の道具は、私の仕事に対する姿勢だけでなく、家庭内での心の余裕までも変えてくれました。たった一つの鍵が、これほどまでに生活の質を左右するものだとは、取り付ける前には想像もしていなかった驚きでした。今でも毎日、始業の際に鍵をかけるあの感触が、私の仕事のスイッチを正確に入れてくれる大切な相棒となっています。
念願の書斎に部屋の鍵を取り付けた日の記録