私が、今住んでいる賃貸マンションの鍵を、入居中に交換しようと決意したのは、ある夜、帰宅途中に経験した、一つの些細な、しかし、忘れられない出来事がきっかけでした。その日、私は、いつもより少し遅い時間に、最寄り駅に降り立ちました。家までの夜道を歩いていると、ふと、背後に人の気配を感じたのです。振り返っても、誰もいません。気のせいか、と思い、再び歩き始めると、また、背後から、コツ、コツ、という足音が聞こえてくる。早足になると、相手も早足になる。その瞬間、私の背筋を、冷たい恐怖が駆け抜けました。私は、ほとんど走るようにして、自分のマンションに逃げ込み、震える手で鍵を開け、部屋に飛び込みました。結局、その人物が、ただの偶然、同じ方向に帰る人だったのか、それとも、私に悪意を持っていたのか、真実は分かりません。しかし、その日から、私の心には、これまで感じたことのなかった「不安」の種が、深く植え付けられてしまいました。特に、私が住んでいるマンションは、築年数も古く、玄関の鍵は、ピッキングに弱いとされる、旧式のギザギザした鍵でした。「もし、あの人物が、私の後をつけてきて、部屋を特定していたとしたら」「この頼りない鍵一本で、本当に私の安全は守られるのだろうか」。そんな考えが、頭から離れなくなってしまったのです。次の日、私は、すぐに管理会社に電話をしました。そして、夜道での出来事と、現在の鍵の防犯性への不安を、正直に伝え、「自費で、もっと安全なディンプルキーに交換させていただけないでしょうか」と、相談しました。担当者の方は、私の不安を親身に聞いてくれ、正規の手順と、指定の業者を、丁寧に教えてくれました。数日後、新しい鍵に交換された玄関を見た時、私は、心の底から安堵しました。費用はかかりましたが、それ以上に、夜、安心して眠れるという、かけがえのない平穏を手に入れることができたのです。